先日ワクチン接種で病院受診をした際に、ずっと気になっていたことを先生に聞きました。
「先生、うちの子の頭の形は大丈夫ですか?」
「大丈夫よ、、最近よく聞いてくる親御さん多いのよね、、、見た目以外の点でやる必要全くないわよ、、○大学病院とか、◇医療センターなんかも手を出し始めっちゃったみたいで、困ってるのよ、、小児科学会が美醜のためであれば不要だって声明を出そうかと検討している所よ」
との事でした。
まぁ、そうだよね、、、って感じですけど、周りから指摘されると
何かした方が良いのかな?
このままでいいのかな?
って気になりますよね。
現在、頭の形が丸くない子はヘルメットを被って矯正できます。
町でかわいいヘルメット被った子に会う機会も増えてきた感じがします。
(結構カラフルな柄あって、センスを感じます😀)
そんな話題の?ヘルメット療法気になりますよね。
今日はヘルメット療法の必要性に関して現在わかっていること、まだわからない事を検討してみましょう。
目次
子供の頭の形って何が正常?
異常を語るには正常を語らないといけません。医学部ではそう習います。
疾病や症候学、病理学を勉強する前に、生化学、生理学、解剖学、組織学、など人間の正常とは何か、をひたすら学びます。
そうしないと、「異常」、と言われてもどこがどのくらい異常なのかわからないからです。
でもさ、でもですよ、、、
子供が産まれたばかりで、医学書やネット等で検索する時間あります?
ネットの情報には嘘も混ざっていますが、選別する知識あります?
正直わかんないんですよ、、、
私たち医者夫婦も正直わかりませんでした。
そこで、
Q うちの子の頭の形は正常なの?
A 素人が正常かどうかなんて詳しく知らなくていい!
病院で専門家に聞けば十分!
これですよ。
ここまで読んで、このブログ最後まで読まなくても構いません!
そういった方は一点だけ、take home messageとして、
①正常か迷ったら医者に相談(入口はかかりつけの小児科)
②子供を病院に連れていくのは大変。そんな時は他の用件で小児科に行った際に
「先生うちの子の頭大丈夫ですか?」と確認して下さい。1か月と3か月健診のタイミングがオススメ
ワクチンとか、中耳炎とかで受診した際に頭の事(別件)を聞くと、医者は嫌がる(めんどくさい😅)人もいると思います。 ですので、健診のタイミングがオススメです。それに3か月健診の際に医者に聞く事が遅すぎる、という事はありません!!
さて、順番に各項目を読んでいる猛者の方々は、一緒にお勉強していきましょう。
まず次は、頭の形の異常にはどんな種類があるのか、をご紹介していきます。
位置的頭蓋変形症の3種類とは?
位置的頭蓋変形症、、、急にむつかしい言葉が出てきましたが、位置的頭蓋変形症とは、頭蓋骨縫合早期癒合症等の病的な状態がないにもかかわらず、頭の形が歪んでいる状態の事を指します。
主に、出生前(多胎など)や出生後(向き癖)に偏った外力が頭にかかった結果として頭が歪んでしまう状態を指します。
大切なことは、頭蓋骨早期癒合症と位置的頭蓋変形症の区別をつけるには画像診断が必要になるので、自宅での素人判断が危険という所です。
take home messageに書いてある通り、心配なら病院に行きましょう。しかし、過度の心配は二度とない子供との大切な時間を失う事につながるので、そういった意味でも思い悩むなら医師に相談を!
頭位性斜頭症 (positional plagiocephaly)
tortleにいい写真があったので是非参照してください。写真の真ん中です。
子供の頭の向き癖によって生じることが多く、片側の後頭部が反対側に比べて突出している状態です。
頭位性短頭症 (positional brachycephaly)
tortleにいい写真があったので是非参照してください。写真の右側です。
後頭部絶壁状態の事です。
頭位性長頭症 (positional dolichocephaly)
横向きの体位で寝かされ続けた赤ちゃん(NICU babyなど)に出やすいと言われています。
更に詳しく知りたい方は
さらに細かい解説を希望される方はAHS japanのホームページをご参照下さい。とても詳細に位置的頭蓋変形症の種類に関して説明されています。位置的頭蓋変形症の先天性の原因、後天性の原因などに関しても細かく記載されており、とてもわかり易いと思います。
リンク飛ぶのがめんどくさい、人のために、簡単に原因を列挙していきましょう。詳しく知りたい方はなるべくリンクも見てみて下さいね!
位置的頭蓋変形症の原因
出生前の影響
- 初産の子宮は経産婦より狭い
- 多胎妊娠は子宮内のスペースが狭い
- 子供が巨大児の場合、子宮内のスペースが狭い
ようは、狭いところに押し込められていた場合ですね。
- 逆子
- 難産
- 吸引分娩や鉗子分娩
上記は分娩に伴う影響ですね。
出生後の影響
- 寝方の問題
生まれて間もない赤ちゃんは自分で寝返りをうてません。特定の位置が毎回下になると、当然頭はその重みから変形してきます。
- 出生前からの影響が出生後にも続く場合
例えば筋性斜頸によって、特定の場所が床に接しやすくなる場合。
NICUに入っていた場合、長期間の集中治療管理の間横向きに寝ている状態になる。
位置的頭蓋変形症ってよくあるの?
増えてます↑↑
皆さんも絶対聞いたことあると思いますが、SIDS(sudden infant death syndrome)、新生児突然死症候群の原因として、うつぶせ寝の危険性が取り上げられるようになりました。
1992年には米国小児科学会がSIDSへの対応として、あおむけ寝を提唱し始めました。それによって、1992年には1000人あたり1.2人のSIDSが2000年には1000人あたり0.56人まで減少したという報告があります。(*1数字は参考文献の番号です)。
この一大キャンぺーンの結果として、赤ちゃんがSIDSを免れたものの、位置的頭蓋変形症の赤ちゃんが増えてきている、という状況です。
位置的頭蓋変形症の症状は? 見た目以外に何がある?
これが一番気になりますね。
放置しちゃダメなんですかね?
ここで再度、大切なことは、素人判断しない事と、頭蓋骨早期癒合症と鑑別が必要なので、悩むなら病院に!でした。
そこで実際に位置的頭蓋変形症と診断を受けた際に、どんな症状が子供にそのうち出てくるのでしょうか?
当然検索するわけですよ 「位置的頭蓋変形症 症状」って。
そしたら、脳もゆがみ、発達が遅れる、首や背骨など、全身も歪む、って書いてあるサイトがありました。
やべーじゃん😭😭
ここで負けてたまるか!と様々更に調べていきます。
ここでちょっと話がそれますが、
皆さんに覚えて頂きたいことがあります。
医学情報を検索する際には、基本は原著論文か成書(医者が読む医学書)まで情報を可能な限り辿りましょう。そうしないと古い情報をつかんだり、誤った情報を信じることになります。
頭のゆがみは脳をゆがめ、その結果として発達が遅れるのか?
今回私は「脳も歪み、発達が遅れる」というネット上での記載に関して自分なりに調べていきました。
その過程で得られた情報を共有していきます。
そうは言いながらも、原著論文や成書を読むのは疲れるので、信頼できる医療機関が一般向けに医療情報を提供しているサイトを幾つか参照してみます。
Mayo Clinicの見解
Mayo Clinicはアメリカの有名な病院です。そこが一般向けにどのように位置的頭蓋変形症に関して説明しているか調べてみました。
ここでは位置的頭蓋変形症の症状に関して以下のように書いています。
- Your baby’s head shape will most likely even out on its own. Positional molding is generally considered a cosmetic issue. Flat spots related to pressure on the back of the head don’t cause brain damage or interfere with a baby’s growth and development.
訳)あなたの赤ちゃんの頭の形は殆どの場合勝手によくなるでしょう。位置的変形(位置的頭蓋変形症のこと)は一般的に美醜の問題です。後頭部の体圧による平らな場所は脳の損傷や赤ちゃんの成長発達を阻害する原因にはなりません。
と書いてます。(訳文中の()は私が追加したものです。本文の下線も私が追加したものです。以下同様)
healthy children.orgの見解①
アメリカ小児科学会が親のために情報提供しているサイトです。
リンク先に以下のような文があります。
- It is important to note that positional skull deformities are purely cosmetic. They do not change the volume or contents of the head, nor cause problems with brain growth or intellectual development.
訳)位置的頭蓋変形症は純粋に美醜問題である事を書き留めておくことは重要なことである。位置的頭蓋変形症によって頭部の容積や内容物は変化せず、脳の成長もしくは知的発達に関しても問題は生じない。
healthy children.orgの見解②
ここでは後に詳しく書くヘルメット療法に関してのページを引用します。
以下のような記載があります。
What are the consequences if a baby does not wear a helmet?
- This again depends on age and how severe the abnormality. In these cases, a helmet can help improve the overall shape significantly, whereas minimal change can be expected if nothing is done.
- Uncorrected plagiocephaly will not influence a child’s neurological development, but it can affect a child’s social well-being later in life.
訳)矯正されない斜頭症は、子供の神経学的発達に影響しないが、子供の後の人生における社会的幸福に影響を与えうる。
なんか大丈夫そうな気がしてきました!
しかし、Mayo Clinic は2015年1月29日が最終更新で、healthy children.orgは2015年9月16日が最終更新です。
そうすると何か最新の知見が出ているのではないか?
見落としているのではないか?と気になりますから、仕方なくいよいよ原著論文の検索を行います。
現状の論文の意見
Plagiocephaly and Developmental Delay: A Systematic Review (*2)
- This review suggests plagiocephaly is a marker of elevated risk of developmental delays. Clinicians should closely monitor infants with plagiocephaly for this.
訳)このレビューは、斜頭症が成長発達遅延のリスクが高まるマーカーであることを示唆している。医師はこの点に関して斜頭症の幼児を注意深く経過観察すべきである
Prevention and Management of Positional Skull Deformities in Infants (*3)
- Families are often concerned that positional skull deformity may cause developmental delays. Although there have been no rigorous prospective studies to address this concern, there is currently no evidence to suggest that positional skull deformity causes developmental delays.
訳)ご家族はしばしば位置的頭蓋変形症が成長発達の遅延を起こすかもしれないと心配されます。これまでにこの懸念を扱った質の高い前向き研究は存在しないが、位置的頭蓋変形症が成長発達遅延をきたすという医学的エビデンスは現在存在しない。
結論
- 頭の形が変(位置的頭蓋変形症)が原因でその後の神経発達に遅れが出るという因果関係は現状証明されていない。
- しかし、頭の形の異常はその後の神経学的発達の遅れを示唆するmarkerとして有用であるという報告あり。よって継続的な経過観察が必要!
- さらに言えば、じゃあ、変形を治した結果として神経学的発達の遅れが改善されるのかどうかは現状不明!
うーん一安心
見た目の問題だけ!
と言っても見た目って大事じゃないですか。
ほっといたらどうなっっちゃう可能性のがあるのか一応把握しておかないといけません。
頭のゆがみが全身のゆがみの原因になるのか?
先に引用した論文にその点書いてありました。
Prevention and Management of Positional Skull Deformities in Infants(*3)
- Concerns have been raised over vision development and mandibular asymmetry, but a causal link to positional skull deformity has not been established. Likewise, there has been no credible medical evidence to support concerns brought up in lay literature associating positional skull deformity to otitis media, temporomandibular joint (TMJ) syndrome, scoliosis, or hip dislocation.
同様に位置的頭蓋変形症が理由に全身のゆがみ(側彎症)が生じるという信ぴょう性の高い医学的エビデンスはまだ無いようです。 ちなみにwikipediaで側彎と調べるとその原因に位置的頭蓋変形症と明記されています。この相反する記載をどのようにとらえるのか、情報を取捨選択する際に皆さんに問われているところです😅。ですからわからないことは悩まずに受診して相談しましょう!
でも安心してください。悩む必要はありません。病院に行って医師に相談してください。
(こればっかり、、、でも大事なのよ、、独りで悩まないで相談しに行きましょう! 産まれて間もない子供を抱えた時、様々調べる時間はなかなかありません!)
まとめ
①位置的頭蓋変形症は神経学的発達の遅れの原因と断定されていない
②位置的頭蓋変形症は後の神経学的発達の遅れのマーカーとなりうるので、継続的な観察が必要
③位置的頭蓋変形症は側弯の原因と断定されてはいない
④色々書いたけど、一番大切なことは乳児健診で医師に相談することを忘れない!
長くなるので、いったんここで区切ります。
次回は実際にヘルメット療法に関してわかっていること、わかっていないことなどを文献を参照しながら検討していきましょう。
ここに記載しなかった「具体的な見た目の問題」、healthy children.orgのサイトに書いてあった、social well-beingに関しても次回詳しく書いていきます。
今回の内容はよくわからないことも多かったと思います😭。
私たち医者夫婦も一通り調べても良くわからないことがまだたくさんある状態です。
でも安心してください。自分達だけで悩む必要はありません。
病院で医師に相談しましょう😀。
「あ、病院で聞いてみよう」とこのブログを読んで思っていただければ大成功です😀
<参考文献>
1 American Academy of Pediatrics, Task Force on Infant Sleep Position and Sudden Infant Death Syndrome. Changing concepts of sudden infant death syndrome: implications for infant sleeping environment and sleep position. Pediatrics.2000;105(3 pt 1):650–656
2 Plagiocephaly and Developmental Delay: A Systematic Review Martiniuk et. al ; Journal of Developmental & Behavioral Pediatrics: January 2017 – Volume 38 – Issue 1 – p 67–78
4 Prevention and Management of Positional Skull Deformities in Infants
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