赤ちゃんの頭の形が変!? 医者夫婦でも悩みます。 ヘルメット療法する?しない? 【本編】

導入編で記載したことの確認からまず一応書いておきましょう。

詳しくお勉強したい方はぜひ導入編も読んでみてください。

 

導入編のおさらい

①位置的頭蓋変形症は神経学的発達の遅れの原因と断定されていない

②位置的頭蓋変形症は後の神経学的発達の遅れのマーカーとなりうるので、継続的な観察が必要

③位置的頭蓋変形症は側弯の原因と断定されてはいない

④色々書いたけど、一番大切なことは乳児健診で医師に相談することを忘れない!

さて、いよいよ本編です。

本編では位置的頭蓋変形症を修正しないとどんな不都合がおきるのか

修正するとしたらどんな方法があるのか

そして修正方法の中でもヘルメット療法に関して少し詳しく書いていきます。

また、現在ヘルメット療法を行っている病院等のサイトリンクも貼っておきますから、そちらもぜひ参照してみてください。

そして、ヘルメット療法に関して日本及び米国がどのようなスタンスを現状もっているのか、もわかる限り調べてみることにします。

では、参りましょう!

 

位置的頭蓋変形症が継続した場合の見た目の問題ってどんなものがある?

この点に関しては積極的に位置的頭蓋変形症を治療介入した方が良い、と主張する文献(*1)から参照してみましょう。

  • Neglected skull deformations may have unfavorable consequences in the future. Children suffering from plagiocephaly without adequate support were reported to
    have a five times higher risk of abnormal speech development and language deficits. Plagiocephalic deformations were recently found to be related to delayed intellectual and motor development. School-age children often need supportive education, speech therapy, physiotherapy or occupational therapy. Astigamtism is also frequently
    diagnosed in children with plagiocephaly. The aesthetic aspects of this condition include problems with fitting prescription glasses or difficulties with fitting protective helmets for sports activities, such as snowboarding or cycling

2016年ポーランドから出た文献で、要旨を抜粋すると

  1. 斜頭を治療しないと会話の発達に異常が生じたりする可能性が高くなること
  2. 斜頭の子は高頻度で乱視の診断を受けること
  3. 頭のゆがみの結果眼鏡が合わなくなること
  4. 自転車やスノーボードを使用する際にヘルメットが頭と合いづらいこと

等を指摘しています。

もう一つは違った結果を言っている文献(*2)を紹介しておきます。

  • There was no significant correlation between the presence of a cranial deformity and the cosmetic judgement and quality of life.

意訳)頭部の変形(斜頭症、短頭症のこと)の存在と、整容の判断及び生活の質との間に、明らかな相関関係は認めない。

オランダにおける斜頭症と短頭症の子供達のその後の生活での見た目とQOL(生活の質)に関して検討したもので、文献1とはだいぶ指摘している内容が異なっています。

 

もう一つ導入編でも引用した文献(*3)には以下のように書いてあります。

  • Concerns have been raised over vision development and mandibular asymmetry, but a causal link to positional skull deformity has not been established. Likewise, there has been no credible medical evidence to support concerns brought up in lay literature associating positional skull deformity to otitis media, temporomandibular joint (TMJ) syndrome, scoliosis, or hip dislocation.

これは2011年の文献で内容の要旨は

  • 位置的頭蓋変形症と視覚の発達及び下顎の非対称性の関連が懸念されているが明かな因果関係は証明されていない
  • 位置的頭蓋変形症と中耳炎、顎関節症、側彎、股関節脱臼との関連を支持するような信頼しうる医学的エビデンスはこれまでの所存在しない

ここで気を付けておかないといけないのは、位置的頭蓋変形症の定義及び計測方法が文献によって異なっていたり、位置的頭蓋変形症の重症度も文献によって異なっているところです。

ですので、こうした真逆のような結果が出ていることになります。

はぁ、、何を信じたら良いのやら、、、

まとめ:位置的頭蓋変形症をほっといたらどうなる?

①見た目の問題(顔面の左右非対称)が起きるかもしれない

②その問題によって、見た目やQOL(生活の質)に影響を与える可能性はある

ちょっとスッキリしませんが、現状はっきりと断言できないところみたいです。

将来的に不都合が生じてくる可能性があるなら、位置的頭蓋変形症を治しちゃえ!という発想になるのは一つかもしれません。(私がその方法を推奨しているわけではありません。あくまで治療法に関してはご家族と主治医と相談して納得のいくものを選んでくださいね!)

 

位置的頭蓋変形症の治療法

保存的治療・体位変換

  • 同じ部分が下に来ないように、赤ちゃんを寝かせます。
  • 抱っこするときも同じ側で抱っこしないように気をつけましょう。
  • 車のベビーシートや、バギーに乗せる際も同じ場所が下にならないようにしましょう。
  • また、赤ちゃんをちゃんと見られる環境下で赤ちゃんをうつ伏せにすること(tummy time)も有効と言われています。

この辺りは導入編で引用したアメリカ小児科学会が一般向けに情報公開しているサイトによくまとまっていました。(tummy timeのまとめです。)

また、ヘルメット療法のヘルメットを作成している、AHS-japanのサイトにもtummy timeに関して詳細な情報が提示されておりましたので、ご参照ください。

 

ヘルメット療法

ヘルメットを被って矯正をする方法です。大体生後4か月くらいから一日23時間ほど6か月くらい被ります。この治療法に関しては更に詳しく検討してみましょう。

手術

位置的頭蓋変形症で手術になることはありません。ごくまれに保存的治療、ヘルメット療法を行っても改善せずに、変形によって見た目以外の支障が出る際に、手術を検討することもあるようです。

手術に関してはむしろ、導入編で記載したように位置的頭蓋変形症の鑑別診断である骨縫合早期癒合症で手術が必要になります。ですので病院受診は大切ですね!

 

いよいよ、ヘルメット療法

 

上に書いた体位変換や理学療法が奏功しない場合に、ヘルメット療法という選択肢があると言われています。

ヘルメット療法に関しては弁護士の大渕愛子さんが子供に行った事で非常に有名になりました。

私たち夫婦はともに医師ですが、正直ヘルメット療法は知りませんでした。

ヘルメット療法どこで出来る?

基本的にヘルメット療法はオーダーしているヘルメットをどの会社で作るのか、によっていくつか選択肢があります。

また、定期的に病院受診する場合と病院受診という形ではなく、オーダーメイドのヘルメットを作成している会社で定期的にヘルメットメンテナンスを受ける場合もあるようです。

例えば、日本の首都の東京では、

「東京都 ヘルメット療法」 と検索すると

AHS japan

東京女子医大 頭蓋変形外来

成育医療研究センター

と出てきます。

あまり選択肢はないようですね、、、。 (もっと探せばあるのかもしれません。)

成育医療センターは、見た目の問題で治療を行うというよりも病気の治療のために形成が必要な子供達のために行っているような印象をHPより受けました。

お値段は? 保険適応なの?

保健適応外で、30万+αから50万+αの間です。詳しくは、各自確認してみてください!

総じて高いです。保険適応外ですからね、、、😅

ヘルメット療法の適応は?

基本的に向き癖の改善やtummy time等を行っても改善しない子供達が適応になるようです。

中でも、月齢の進行に伴い変形の目立った改善が見られない、変形の重度から最重度の子供たちに積極的に進めているようです。

様々な位置的頭蓋変形症ブログに目を通していると、かかりつけで「そのままほっといたら自然に改善するよ!」と言われたけど、

気になるので専門医を受診すると

「これは何もしなければ治りませんよ!」

と言われて治療開始した

といった流れになるようですね。

再度くどいようですが、お悩みでしたら是非専門医の受診をお勧めします!

ヘルメット療法の副作用・有害事象ってどんなものがある?

  • 皮膚トラブル

これは良くあるようです。被る季節にも影響を受けると思いますが、基本的にヘルメット療法は一日23時間を半年ほど継続するものです。 ですから、皮膚トラブルが起きそうなことは容易に想像できます。 夏などは特に大変でしょう。

  • 痛み

これは個人差がかなり大きい見たいです。主に使用し始めに多く、夜間も泣いてしまって睡眠不足につながる原因になります。 (ほとんどのケースで気にならないようです。)

  • 睡眠障害

ヘルメットをつけ始めに違和感を覚えることから夜間に眠れずに、親も子も寝られない!といった事が起きる事があるようです。 (治療体験ブログでは速やかに改善すると書いてあります。)

  • ヘルメットの臭い

定期的に洗えば問題ないのでしょうが、長期にわたって身に着けるものなので、体臭は染みついてしまうようです。

  • 子供が嫌がって外してしまう

子供の月齢が上がってしまうと、自分でヘルメットを外してしまうようになるため、治療の継続が難しいようです。概ね、5~6か月くらいの間に始められた方が良いようです。

  • 寝かしつけなどの際に邪魔

これまで寝かしつけで添い寝しながら授乳していた方は、ヘルメットを邪魔に感じることがあるようです。

ヘルメット療法って効果あるの?

2016年のアメリカにおける位置的頭蓋変形症に対する治療ガイドライン(*4)では、軽症及び中等症に対して、保存療法がヘルメット療法よりも効果があるのかどうか、まだはっきりしない点もあるが、重症に関しては、ヘルメット療法による早期介入のメリットはありそうだ、という記載になっています。

ちょっと長いですが抜粋しますと、

  • In general, infants with a more severe presenting deformity and infants helmeted early in infancy tend to have better reported correction or even normalization of head shape.

意訳)一般的に、変形がより重度な赤ちゃん及び早期にヘルメット療法を行った赤ちゃんは、傾向としてより良い矯正報告を得たり、または頭部形状が正常化したりすらする。

やるなら早い方がよい、という主張ですね。 (下線は私が追加しています。)

  • Many groups use conservative therapy such as repositioning and physical therapy for treatment of mild to moderate deformity in younger infants and reserve helmet therapy for more severe deformity, especially older infants who have failed to see improvement with conservative measures.

意訳)多くの場合、変形が軽症や中等症のより月齢の若い赤ちゃんに対して、向き癖の改善や理学療法で対応し、ヘルメット療法はより変形が強く、特にこうした保存的治療に反応しなかった子供達にとっておく。

  • Evidence in favor of helmet use is annotated by the lack of data regarding the extent of natural history improvement in positional plagiocephaly, the long-term effects of helmet therapy and of residual plagiocephaly, and costs associated with helmet therapy.

意訳)ヘルメットの使用に好意的な医学的エビデンスは、位置的頭蓋変形症における自然改善の程度に関するデータがまだ不足していること、ヘルメット療法の長期的な影響に関するデータがまだ不足していること、頭蓋変形症が残存した場合の長期的な影響に関するデータが不足していること、そして、ヘルメット療法に関連するいろいろなコストなどの注釈が付く。

 

 

相反する主張として、ヘルメット療法は保存療法と比較して有効な治療効果は得られない。という論文(*5)が2014年にBritish Medical Journal という権威ある雑誌から出版されています。

しかし、この研究のデザインに関してもいろいろとケチをつけている方もいて、先に紹介したガイドラインでもその点言及されています。

個人的に気になっているところは最重症のケースを除外している点と、早産のケースを除外してスタディーを組んでいる点ですね。

ですので、変形が強いと思うご家族や、早産かつ頭蓋変形症があり、矯正するかどうか悩んでいる方が是非まずは自分の子供の頭の変形具合を確かめに受診しましょう!

 

まとめ

ヘルメット療法する、しない?

まだわかっていない事も多いが、

①かかりつけの先生には「ほっておいても大丈夫」と言われることが多いが、専門外来では「治療しないと治らない」と言われる展開が多い。

②保存的治療で改善しない場合は、4か月~遅くても6か月くらいまでに気になる方は専門医を受診しましょう

③ほっといた場合にどんな不都合がどの程度の頻度で生じるのかどうかはまだはっきりしないところも多い。

④保存的治療で改善しない場合、ヘルメット療法に進むことが定着してきているが、その短期的治療効果、長期的治療効果、に関してはまだ結論が出ていない。

⑤こういったはっきりしない状態の中、自分で判断することは難しいので、専門家の意見を是非聞きに行くべき!

私たち夫婦の選択

自分の子供の重症度の判定を専門家に依頼する所から始めようと思いました。そこで中等症と判断された場合にはこのまま様子を見るかもしれません。まだ未定ですが、重度との診断がついた場合にはヘルメット療法を行ってみようかな、と今は傾いています。

終わりに

今回わが子の頭の形がいびつであることをきっかけにヘルメット療法を受けさせるかどうかに関して考える機会がありました。

治療選択に際して思考のプロセスを公開することは、同じような心配を抱えている方々のお役に立てると思い、

位置的頭蓋変形症とはどういったもので、どんな症状があって、放置するとどうなるのか?導入編でも検討しています。

そして、ヘルメット療法に関して、

今わかっていること、まだはっきりしない事などを、わかる範囲で調べた情報を公開しています。

私たち夫婦が至った結論が現状のベストである、と皆様に喧伝するつもりは全くありません。

現状わかっていること、わかっていない事を予備知識として持ったうえで、是非専門家の診察を受けるようにしてください。

医学の発見は一日一日で変わっていきます。

昨日と真逆の事が明日には常識になっている、という事はたくさんあります。

皆様がご家族、ご夫婦、そして主治医と相談し、「わが子にとってベスト」と思って選択された方法が、

それぞれのご家族にとってベストな方法だと思います。

専門家と相談する際にここの情報が少しでもお役に立てれば、と思います。

また、今回ヘルメット療法の説明に際し、特定の会社のホームページを紹介しておりますが、それは同業他社に対しての有意性を示すものではありません

治療法の選択、及びどの企業をお使いになるかは、住んでいる地域、他価格など諸条件で変わってくるところだと思います。

皆様にとって一番納得のいく治療法を選択されることを願っております。

 

<参考文献>

1Early diagnosis and treatment of children with skull deformations. The challenge of modern medicine. Binkiewicz-Glińska A et.al,  Dev Period Med. 2016;20(4):289-295.

2 Prevalence and Consequences of Positional Plagiocephaly and Brachycephaly Feijen, Michelle et.al Journal of Craniofacial Surgery: November 2015 – Volume 26 – Issue 8 – p e770–e773

Prevention and Management of Positional Skull Deformities in Infants James Laughlin et.al the Committee on Practice and Ambulatory Medicine, Section on Neurological Surgery

New guidelines review evidence on PT, helmets for positional plagiocephaly: Sandi K. Lam et. al

5  van Wijk RM, van Vlimmeren LA, Groothuis-Oudshoorn CG, Van der Ploeg CP, Ijzerman MJ, Boere-Boonekamp MM. Helmettherapy in infants with positional skull deformation:
randomized controlled trial. BMJ. 2014;348:g2741

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